RPA導入で中小企業が直面する3つの悩み

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は2016年ごろから大企業や金融機関が中心となって導入が進められ、いまや中小企業にも普及しつつある。

RPA導入の成功事例を見聞きした経営トップから、RPAの検討を指示された人も多いだろう。

しかし、国内外のRPAツールは数多く提供されており、どのツールが自社に合っているのかわからないという声をよく聞く。また、導入したものの開発がむつかしい自動化が安定しないどの業務を自動化すべきかわからないという、RPAを使ってはじめてわかる悩みもある。

中小企業でもRPAは簡単に利用できるのか。どうすればRPAの導入に失敗しないのか。

当社は18年前から業務自動化ツールを1000社以上の企業や自治体に提供してきた。その実績とノウハウをもとに、RPAの導入を検討している中小企業が直面する3つの疑問を紐解いてみよう。

RPAは中小企業でも効果が出るのか

中小企業は大企業に比べ、一般的に業務の種類や事務処理の量が少ない。RPAが得意とする定型的なパソコン操作も比較的少ないため、自社に導入して本当に効果が出るのかという疑問がある。

ひとつのまとまった量の業務を一人または複数の社員が行うのではく、一人が複数の業務をこなすのが中小企業の実態ではないだろうか。そのような状況でRPAを導入してもごくわずかな時間しか削減できず、RPAの効果が小さいのではないか。それなら今までどおり人が手作業で行ったほうが良いという考えである。

しかしこのような中小企業こそRPAを導入すべきである。

処理時間のかかる単一業務だけに注目せず、細切れでの業務でも積み重なると大幅な時間削減が見込める。そして一人ひとりに時間の余裕ができるだけでなく、ミスがゆるされない気を使う業務から解放されればストレス解消にもつながる。なにより属人的な業務を標準化でき、業務プロセスを改善することもできる。

人材不足に悩む中小企業こそRPAが生産性の向上に役立つのだ。

 

【事例1】23業務、月間218時間を削減

大阪府大東市の電動送風機メーカー昭和電機では、働き方改革の一環で事務系社員を中心に定時退社を推奨してきたが、仕事を残して帰宅するわけにもいかず、残業時間は思うように削減できなかった。そこで同社は経営陣の指示のもと20179月にRPAを導入し、わずか一年で23業務、月間218時間分を削減した。

同社は手始めに勤怠管理の自動化に取り組んだ。タイムカードの打刻モレをチェックし、該当の社員と上司にメールで通知するプロセスを自動化し、総務担当者は本来やるべき業務に時間をさけるようになった。

RPAの導入効果を実感したICT担当者は、全部門の業務の棚卸しを行い、59業務を自動化対象として選定した(表1)。

得意先への納期回答、売上の集計業務など1日で2時間を超える業務もあるが、わずか5分から15分の業務が大半を占める。これらの業務を積み重ねることで月に200時間を超える時間短縮を実現している。

表1:昭和電機の業務分析表

RPAの開発体制はどうあるべきか

RPAは大企業だけのものではなく中小企業にもメリットがあることはわかったが、誰でも簡単に開発できるのか。

情報システム部門のない中小企業も多く、RPAによる開発は人が行う操作を定義していけばよいため、プログラムの知識がない、実際の業務を行っている現場での開発が可能と判断する企業もある。基幹システムの開発・保守だけでも手が足りない企業なら、なおさら現場主導でRPAの導入をすすめると考えるだろう。

現場の担当者自らRPAの開発スキルを身につけ業務改善していき、全社的に一元管理するしくみを作る。これが理想的なRPAのあり方であるという見方もある。

一方で現場にはRPAの開発やメンテナンスをまかせる余裕などない、日々の業務に集中してもらいたい、RPAで何をしているのか分からなくなる。そのため、責任ある部署や開発会社に任せるべきだという企業もある。

 

【事例2】RPAベンダーのサポート体制を重視

オフィスの設計・施工やサプライ用品の販売を手がける近藤商会(本社、函館市)は、事務用品の通販「アスクル」のエージェント(正規取扱店)としても事業を拡大している。同社は20189月よりアスクル関連の業務で自動化の取り組みを開始したが、導入したRPAAutoジョブ名人」の開発元であるユーザックシステムに開発を委託した。

自社で開発するかどうかも含め複数のRPAを検討した際に、「RPAはお客様が作るもの、後はどうぞそちらでやってください」というRPAベンダーもいたという。稼働後メンテナンス、そして将来は自社のお客様にもRPAを提供したいと考える同社は、RPAベンダーのサポート体制を重視してRPAを選定した。今後は開発支援を得ながら専門部署でのRPA開発をさらに進めて行く予定だ。

 RPAによる業務の自動化は開発しさえすれば良いというものではなく、稼働後のメンテナンスが大切である。人であれば操作する画面の変化に対応できるが、RPAはあらかじめ決められた処理しかできず、想定していなかった画面が表示された場合は、誤った操作を繰り返すか停止するといったエラーになる。

業務の変化にも常に対応して行かなければならない。こうした保守作業も含めたRPAの開発のあるべき部署をどこにすべきか、導入前に考えておく必要がある。

業務のことが一番よくわかっている現場で開発を任せるという発想は特に気をつけなければならない。

たとえRPAであっても基幹システムと同じように、何かあればすぐに対応してくれる高いサポート品質を求める中小企業は少なくない。

RPAを導入する場合、ツールの比較だけで判断するのではなく、実際に導入を支援してくれる会社のサポート体制やサービス内容も必ず事前にチェックし、自社に合うかどうか判断すべきであろう。

 

RPAは安定して稼働するのか

「処理スピードは速くなくてもいい。業務を確実に実行してほしい」。こう語るのは食品メーカーのマーケティング担当者。小売企業が提供するPOSデータのダウンロードをRPAに任せている。

人が毎日行なっていた複雑な条件指定や画面操作を自動化し、年間で約6,000時間分の削減効果を出している。操作する対象はインターネットを経由した小売企業のPOSデータダウンロードのサイトであり、ネットワークや先方のサーバの負荷状況により、レスポンスがかかる場合がある。

また、ブラウザ画面のため、表示内容に応じてレイアウトが変化することもある。RPAの処理速度を優先すると、このような場合に対応できない可能性があるので注意が必要だ。

安定稼働性はRPAでもっとも大切なポイントだろう。人が行う業務をRPAに任せるのだから、その業務が途中で止まることのない安定性が求められる。しかしRPAを安定して稼働させるのは意外と難しい。

安定しない原因の多くは想定したものと違う画面が表示する、または操作対象の項目がうまく特定できないことだ。RPAは、まず操作する項目を特定し、その項目に対して動作を行う。「項目の特定」と「動作」、この2つの繰り返しといってもよいだろう。

たとえば画面上に表示される「OK」ボタンを特定し、それを「クリック」するという動作である。この「OK」ボタンの特定に失敗するケースがあるのだ。それは項目の特定方法に大きく影響する。

 

項目を特定する4つの方法

RPAはおもに、
(1)オブジェクト指定
(2)キーボード指定
(3)画像指定
(4)座標指定
の4つの方法で項目を特定する。

(1)オブジェクト指定とはアプリケーションやWebブラウザが内部的にもっている項目のタグ情報(項目IDや項目名など)を指定する方法。この方法がもっとも安定するやり方だが、タグ情報をいかに確実に取得でき、簡単に設定できるか、それがポイントである。

(2)キーボード指定とはファンクションやタブキーを操作して目的の項目を特定する方法。これも比較的安定するが、キー操作と画面表示のタイミングがずれると、間違った項目を特定する可能性がある。

(3)画像指定とは操作する項目をあらかじめ画像として登録し、操作するタイミングでその画像を探し、一致すれば何らかのアクションをするという方法。タグ情報が取れない場合に利用されることがある。見た目どおりに項目を特定できるため開発がしやすく、現場ではよくこの画像による指定で開発することが多い。ただし以下の状況では不安定になりやすいため注意が必要である。

①開発時と実行時の画面の解像度が異なる場合

②項目がウィンドウから見えない場合

③同じ形状の項目が複数ある場合

④表示されるたびに内容、色が異なる場合

(4)座標認識はウィンドウの縦横の位置情報で項目指定する方法。これはもっとも不安定な指定方法なので、できるだけ使わない方が良い。以上4つの方法は(1)から(4)に行くにつれ、順に安定性が低くなると考えて間違いないだろう(図1)。

このほか、業務の流れを整理し、条件分岐の必要がないか、もれがないように自動化の手順(シナリオ)に入れておきたい。場合によりRPAが自動化しやすいような業務プロセスに変更することも必要だ。それでも予期しない画面やメッセージが表示されることがあるので、RPAはエラーがあるという前提で取り組んだ方が良いだろう。エラーをいかに素早く通知し、確認できるかも運用する上で大切なポイントである。

 

図1:項目の指定方法と安定性
図1:項目の指定方法と安定性

RPAは最後の手段と考える

以上のようにRPA導入における3つの疑問と注意すべきポイントをおさえておけば、大きな失敗はなく中小企業でも十分にメリットが出せるだろう。うまく利用すれば人材不足を補うことも可能である。これが「RPAはデジタルレイバーである」といわれる理由でもある。

しかし、なんでもRPAで解決すれば良いというものではない。業務改善の手順は、まずは業務の棚卸しを行い、そのプロセスを改善できないか検討することから始まる。

そしてシステム化すべき業務はプログラムを作成するなどしてシステム化し、最後にRPAの適応を検討する。RPAはあくまでも最後の手段と考えよう。今ある業務プロセスが必ずしも最適であるとはいえないからだ。

FAX受注をメールに変更し、添付ファイルからデータを取り出し、基幹システムにデータ連携する流れを自動化した事例は多い。

取引先の協力が必要だが、お互いにメリットがあるように業務を見直すことで、さらにRPAの活用が広がり、業務の生産性が向上する。

おわりに

昨年6月に成立した働き方改革関連法がいよいよ2019年の41日に施行される。単月で100時間未満、年間では720時間という「残業規制」に違反した企業には罰金が科される。

外国人の単純労働就労に道を開く法律も施行されるが、効率的な働き方がより一層求められる。

こうした労働環境では、RPAの役割はますます高くなるだろう。経営者がRPAと正面から向き合い、トップダウンでRPAの取り組みを進めて行くことが、従業員の幸せと企業の発展につながるのではないだろうか。

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