送り状発行システムとRPA

はじめに

2017年に大手運送会社であるヤマト運輸が取扱数量の増加、トラック運転手不足などを理由にタイムサービスの指定区分の見直し、集荷締め切り時間の変更など宅配サービスの一部見直しや、配送料の値上げを実施したいわゆる「ヤマトショック」はみなさんの記憶に新しいのではないだろうか。ネット通販の急増に対して実施された施策ではあるが、他の運送会社も軒並み配送料の値上げに踏み切り、荷主企業の多くは物流コストが増加することになり、対応を迫られたのである。

今回は当社が業務パッケージベンダーとして様々な企業と取り組んできた送り状発行業務の改善について紹介していきたい。

送り状発行業務の課題(1):複数の運送会社を利用

配送料の値上げにより、運送会社1社に一括で委託すると採算が合わなくなるケースも出てくる。集荷時間、配送地域、重量・才数、配送時間など様々な条件下で最適な運送会社を選択できるように複数の運送会社と契約し、依頼を分散するなどの対応を行う荷主企業も多い。

現在では多くの企業が送り状発行にコンピュータシステムを利用している。各運送会社も自社の送り状が発行できる送り状発行システムを用意しており、荷主企業から要望があれば、PCとプリンタをセットにして無償あるいは低価格で提供しているため、手書きで送り状を作成している企業はほとんどないであろう。

利用する運送会社が1社の場合は送り状発行システムも一つで、各運送会社で提供している端末を利用すればコスト負担も少ないが、複数の運送会社を利用するのであれば、上記の方法だと運送会社毎の端末が必要となり、利用運送会社数分のPCとプリンタの設置場所の確保、それぞれ異なった操作方法の習得など配送料以外のコストが問題となってくる。そこで送り状発行システムを一元化することで上記の問題の大半はクリアできる。

送り状発行システムの一元化

送り状発行業務の課題(2):着荷問合せへの対応

荷主企業では着荷の問い合わせへの対応も工数が大きく、効率化の妨げとなっているケースも多くみられる。

商品の出荷後、「いつ届くのか」「商品がまだ届かないが今どこにあるのか」と届け先からの問い合わせに対して出荷担当者は送り状の控えの束から対象の届け先の伝票を探し、送り状に記載されている問合せ番号を各運送会社の貨物追跡サービス画面で検索して配送状況を確認し、折り返し連絡するということがよくある。

送り状発行システムを導入しているとシステムの発行履歴から検索することも可能だが、どの運送会社を利用したのか、また納品書が複数あれば、どの納品書分の問い合わせなのかを確認する必要があり、工数増加の一因となっている。

基幹システムで採番される納品書番号と送り状の問い合わせ番号の紐付けが出来ていれば検索の工数は大幅に削減されるので、基幹システムとデータ連携が可能な送り状発行システムを是非とも導入すべきである。

納品書番号と問合せ番号の紐づけ

送り状発行業務改善事例(1)

~送り状発行システムとRPAを連携させて連絡業務を効率化した事例~

封筒印刷をしているA社では元々荷物の大きさ、配送地域によって4社(日通、福通、佐川、ヤマト)の運送会社を使い分けて、送り状発行システムも統一していたが、通常300/日、繁忙期では1,000/日の出荷を行っており、送り状発行業務の効率化が急務となっていた。

A社では物流サービスの一環として毎日出荷作業完了後に使用した送り状の控えをFAXで納品先へ送信している。毎日の出荷報告と控えに記載されている問合せ番号を届け先へお伝えすることで先方の貨物追跡が容易になり、お客様にも好評である。

しかし、毎日出荷作業終了後に送り状控えを仕分けし、FAXで送信する作業は作業者の負荷が大きく残業も慢性的に発生していた。

また、4社の内の2社から運送EDIの要請がでてきた。運送EDIとは、毎日の運送会社への出荷依頼情報(問合せ番号、送り先、個口数など)を運送会社へデータとして送信するシステムのことで、このシステムを利用することで複写の送り状が不要になり荷札ラベルのみで依頼が出来、月次の請求処理も迅速に行えるという荷主企業側へのメリットがある。

しかし、運送EDIに対応したシステムが必要になり、A社が現在使用しているシステムでは対応できなかった。また残りの2社に確認したところ、どちらも運送EDI対応は可能という話だったのでこの機会に送り状発行システムの見直しのプロジェクトが発足した。

まず運送EDI対応については、運送会社各社が提供している端末では運送EDIに対応していたが、いずれも各運送会社のみの対応だったので各社の端末を導入することになり、設置場所、操作性が統一されないという問題により見送られた。当社の「送り状名人」はラベルも含めた送り状の設計、及び運送EDI用のファイルレイアウトの設計が自由に行え、また上記4社の運送EDI対応の実績もあったため、候補に入った。

次に出荷報告業務の改善であるが、運送EDIに対応している送り状発行システムは通常、問い合わせ番号の自社採番機能が実装されており、運送EDI送信用のデータとしてCSV形式で取り出すことが可能になっている。このデータを届け先毎に切り出してメール添付して送信すれば控えをFAXで送信することに比べて飛躍的に作業効率は向上する。

ただし、CSVデータの出力、データの加工、メール添付送信を担当者が処理するのであれば、結局出荷作業が完了してからの作業となり、作業時間は短縮されるが残業はなくならない。この問題を当社のRPAツール「Autoメール名人」が解決した。「Autoメール名人」はメール送受信に関する定型業務を自動化するRPAツールである。

1.送り状名人から出荷実績データ抽出
2.届け先毎にファイル分割
3.メールで届け先担当者へ送信する。

この処理を夜間に実行する「Autoメール名人」でスケジュールを登録しておけば、担当者が帰宅したあとに自動で実行されるので出荷完了を待たずに帰宅することが出来る。さらに問合せ番号をメールのファイル添付ではなく、本文中に対象運送会社の貨物追跡サービスのリンクと共に送信することで届け先担当者はA社に連絡するより簡単に貨物の配送状況の確認ができるようになる。

送り状発行システム全体像

検討の結果、A社は「送り状名人」と「Autoメール名人」を採用し、必ず残業が発生していた出荷通知業務がなくなり、翌日以降の着荷問合せも順調に減ってきている。

送り状発行業務改善事例(2)

~送り状発行システムを中心とした出荷業務の改革事例~

建築用金物を扱うアムハード小西さまでは、お客さまから日々寄せられる出荷荷物の問い合わせへの対応に多大な時間と労力を費やし、また、増加する出荷量に現場が追い付かず業務の効率化も切実な課題となっていた。

(1)出荷業務の課題
出荷センターの業務は

1.事務所で先方注文書の印刷、ピッキングリスト発行
2.倉庫でピッキングリストを元にピッキング
3.事務所でピッキング結果に基づいて出荷案内書を発行
4.倉庫で現物と出荷案内書で検品し、梱包
5.事務所で梱包個口分の送り状を発行
6.倉庫で送り状を梱包に貼り付けて出荷

となっており、倉庫と事務所を何度も往復しなければならなく非常に手間がかかっていた。

度重なる大規模地震の発生や法改正により、アムハード小西様が取り扱う耐震構造金物のニーズも高まり、物流体制の強化が急務であった。

改善前の業務フロー

(2)問合せ対応の課題
アムハード小西様では商品の特性上、納品先は建設現場も多く、配送遅延は施工工程にも影響がでるため、建設資材はジャスト・イン・タイムに届けることが求められている。現場の担当者も運送会社のサイトで配送状況を確認するのではなく、受注窓口に直接電話をかけて来る。商品の配送状況の問合せは、受注スタッフが基幹システムで受注データを確認し『この荷物ならヤマトだな』とあたりをつけ、運送会社のサイトで配送状況を確認し回答していたのである。

対応にはある程度経験が必要で、出荷後間もない荷物の場合はサイトにも情報が表示されないので、検品や出荷を担当したスタッフを探し、物流センターと電話でやり取りする必要もあり、問合せは1日に数十件、受注担当者の3割近くがこれらの対応にかかりきりになっていた。

(3)出荷業務の改革へ
出荷現場の改善策としては、システムと連動して業務フローや出荷場の配置を含め、手戻りがないよう抜本的に見直すというもの。

出荷事務所で発行していた送り状を出荷現場で発行することにして、出荷場を運送会社ごとのコーナーに区分けし、各コーナーで運送会社ごとに送り状を発行して荷物に添付、発送することとして、出荷案内書に追加された売上伝票バーコードをスキャンすると、最適な運送便の判別がなされ、送り状が発行される。ピッキングリスト発行以外の処理を出荷現場で行うことで作業工程は9→5と4工程の削減、手戻り分も含めて9工程の削減が実現された。送り状作成を現場で行うようになり、事務所のスタッフも5.5名→2名へ大幅削減に成功した。システムが整ったことで受注スタッフも調査時間が削減され、かかってきた電話中に対応が出来て、時間短縮と顧客満足度の向上も実現したのである。

改善後の業務フロー

おわりに

お客様へ商品をお届けする最前線である送り状発行業務のシステムを整備することで物流部門の生産性が大幅に向上する事例を紹介してきた。運送会社を中心とした物流業務は、今後ますます厳しい環境となるだろう。お客様に最適な物流サービスを提供し、そして配送コストを抑えるためには、複数の運送会社とのよりよいパートナーシップが必要となる。そのためにも複数の物流会社に対応した出荷システム、荷物の問い合わせに迅速に対応するシステムの構築は、ますます重要になるのではないだろうか。

著者:ユーザックシステム株式会社 マーケティング本部 早野 聡

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