兵庫県 西播磨県民局 様
地元と創る、続ける、拡げる――
西播磨の山城をARで再現した“地域一体型コンテンツ”の力
自治体と地元が育むプロジェクトの軌跡

兵庫県の西南部に位置する西播磨地域は、歴史ある城跡や美しい自然、特色ある農産品など多彩な観光資源を有しています。
そして、2020年3月より配信を開始したARアプリ「西播磨の山城へGO」は、兵庫県西播磨県民局が事務局を務める西播磨ツーリズム振興協議会が主体となって活動する「山城復活プロジェクト」より誕生しました。
山城という歴史的資源をAR(拡張現実)で可視化し、地域の魅力を再発見・発信するこの試みは、観光振興と地域活性化の両面で注目を集めています。
本レポートでは、同アプリの導入経緯や成果、西播磨県民局での取り組み、さらに今後の展望について、2025年4月に実施した西播磨県民局 県民躍動室 地域振興課長 西尾 祥子 様、木本 悠翔 様への取材をもとにご紹介します。

――西播磨県民局 県民躍動室 地域振興課でのお仕事について、お聞かせください。
木本
地域振興課では、西播磨地域に数多く存在する地域の歴史・自然資源などを活用して、交流人口の増加と地域の活性化を図っています。また、歴史・伝統文化、山城、豊かな自然や美しい景観、地場産業、先端科学技術等西播磨の魅力を磨き、元気高齢者やインバウンドを地域に取り込めるよう、市町、観光協会等と連携し西播磨ならではの特色のある施策を展開しています。
西尾
西播磨の地場産業として、お醤油やお酒、お塩、そうめん、皮革などが有名です。また、当庁の近く(※:兵庫県赤穂郡上郡町光都)には世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設のSPring-8もあり、諸外国の方々もたくさんお見えになっています。

――ARアプリ「西播磨の山城へGO」は、2020年3月に西播磨ツーリズム振興協議会が主体となって配信が開始されました。当時は、雲海の名所でもある雲突城(くもつきじょう)こと利神城(りかんじょう:佐用町)の江戸時代の姿を3DCGで再現するところから始まったとお聞きしています。改めて、現在の状況を教えていただけますか。
木本
私は令和6年度から地域振興課に配属されましたので、配信開始時の状況は詳しくありません。現在の「西播磨の山城へGO」ですが、当初の利神城のほかに、篠ノ丸城(宍粟市)、白旗城(上郡町)、感状山城(相生市)、龍野古城(たつの市)、尼子山城(赤穂市)、楯岩城(太子町)と、全部で7城が収録されています。また、近年では地域を拡げ、中播磨の山城についても収録を開始し、鶴居城、谷城、川辺城、瀬加山城など市川町の山城や、春日山城(福崎町)、置塩城(姫路市)も紹介しています。
アプリのダウンロード数は、これまでの累計で10,000を超えています。
――当社の実績でも、ダウンロード数で10,000件を超える例はなかなかありません。西播磨にはたくさんの山城がありますし、中播磨にも対象地域を拡げることで、毎年少しずつお城が追加でき、ファンの方が増え、このようなヒットにつながっているのではないかと思います。
西尾
汎用的なテーマではなく、お城、しかも山城という、ある種マニアックなテーマですよね。私は令和7年度から地域振興課に赴任しておりますが、赴任前は「西播磨の山城へGO」を知らなかったです(笑)。
木本
私も赴任前は、上月城や白旗城など、歴史の教科書に出てくるような山城の知識が多少あったくらいで・・ ここ、西播磨にこんなにたくさんの山城があることは知らなかったです。赴任後にアプリの存在を知って驚きました(笑)。
このアプリは、現地で山城のCGを表示させると、今、自分がいるところがアプリ内に表示されます。アプリの利用者にお聞きすると、この機能が特に支持されているようです。
山城は、素人からすると、せっかく現地に行っても、目の前に遺構があっても気が付かない場合が多いと思います。石垣とか竪堀とか、一見わかりやすそうな遺構でさえも、ガイドさんからの説明がないと、通り過ぎてしまうことが多いのではないでしょうか。その点、ガイドさんのような説明がされており、隅々まで山城探索を楽しめるようにしたのがこのアプリの良さだと感じています。
私自身も、収録されている西播磨の山城には、アプリを携えつつ、全て登ってみました。そして、アプリのおかげで往時の様子を想像しながら楽しむことができました。

(中)山城の歴史なども確認できる。
(右)山城の3DCG。高精細のCGで、拡大したり目線を変えたりして楽しめる。

――改めて、山城を核とした、地域活性化の取り組みについて、教えていただけますか。
木本
事業として、山城を核とした地域活性化に取り組みだしたのは令和2年度からです。令和2年から3年間、山城のガイドさんを養成する講座を県民局も参加する、西播磨ツーリズム振興協議会が企画しました。誕生したガイドさんは西播磨山城ガイド協会に所属され、それぞれの山城で活動されています。
西播磨には管内に130を超える山城があり、そのなかでも特に歴史的・文化的に価値が高い11の山城を「山城イレブン」と称しています。その11のお城には、数名ずつのガイドさんがおられ、訪れた方に山城の魅力を伝えておられます。

また、西播磨ツーリズム振興協議会では山城関係のグッズを企画したり、毎年横浜で開催される日本最大級のお城の祭典でもある「お城EXPO」にも出展しています。西播磨の山城3兄弟のイラストも公募により制作しました。
ちなみに、「お城EXPO」の後はアプリのダウンロード数が大きく増えます。現地でお配りした山城3兄弟のトートバッグも大好評でした。皆さん、ぜひ西播磨にお越しいただければと思います。
また、こちらは一例ですが、赤穂市の有年(うねやま)地区では、「うねぶら」と称するイベントが毎年開催されています。こちらは、山城への登城ツアーと、さまざまなイベントによって、地域で終日楽しめるイベントとなっています。キッチンカーの出店や、ヨガやカヤックの体験などもあるようです。まさに、山城を核とした地域活性策のひとつと言えそうですね。県民局も、補助金の交付などの形で関わっています。

西尾
山城各所の山裾に、「西播磨の山城へGO」のノボリが掲げられている様が見受けられます。各城のガイドさんが掲げてくださっているのでしょうか。このような取り組みも、登城のきっかけになってくれているのではないでしょうか。

――ありがとうございます。「西播磨の山城へGO」について、バージョンアップなどのご計画はございますか。
木本
アプリを通じて、西播磨の山城に登りたいと思われる方が増えるよう、今後も運用していきたいです。具体的には、今年度もアプリで紹介する山城を増やしたいと考えており、候補として、たつの市にある「城山城(きのやまじょう)」を考えています。この「城山城」は、赤松円心の三男である則祐が築城したと言われており、山城イレブンのひとつでもあります。いずれ、山城イレブンの11城全てがアプリに収録できれば、と考えています。
もう一つは、アプリの利用者へ積極的に情報発信するためのプッシュ通知機能の追加です。収録する山城が増えたとか、機能を追加したなどを積極的に情報発信することで、アプリをダウンロードいただいた方にご満足いただき、アプリの継続的なご利用と、現地への訪問に繋がればと考えています。

――ユーザックシステムについて
木本
担当の本岡さんには、西播磨の山城を地域の観光の目玉として活用していていくうえで大変ご協力いただき感謝しています。今後も、西播磨の山城を全国にPRし、利用者が西播磨に足を運んでくださるよう、ご協力いただければと思います。
――ありがとうございます。ユーザックシステムは、コンテンツを作成する際、地域が一緒になって盛り上げていくことが重要であると考え、ご発注いただいた自治体様だけでなく、各市町の学芸員の方など、地元の皆様とコミュニケーションを取りつつプロジェクトを進行するように努めております。西播磨でのお取り組みは、まさに地域一体の好例であると感じます。また、多くの自治体様ではアプリに収録するコンテンツが1つ、2つに留まってしまい、ダウンロード数が伸び悩んでしまっているのが現状ではないでしょうか。「西播磨の山城へGO」のように、少しずつコンテンツを追加することが、ダウンロード数の増加に繋がり、ひいては誘客・地域の賑わいに結びついていくと言えるかもしれません。今後ともよろしくお願いいたします。


解説:「西播磨の山城へGO」について
兵庫県西播磨にある、さまざまな山城を愉しみながら巡っていたくためのARアプリです。兵庫県西播磨県民局が、西播磨地区への誘客を目的として推進する「西播磨山城復活プロジェクト」に基づいて、同プロジェクトに参画するユーザックシステムが開発しました。第一弾として、西播磨の佐用町に位置する山城 利神城(りかんじょう)を収録。利神城の歴史や、かつてあった三層の天守などをリアルに再現した3DCGのほか、城下2ヵ所のARスポットのみで再現できるコンテンツ(3DCGの特典画像やドローンによる空撮映像)などを気軽にお楽しみいただけます。2025年4月現在、西播磨地区7城、中播磨地区6城、計13城を収録。2020年のリリース以来バージョンアップを重ね、累計ダウンロード数は10,000件を超えています。
