
「働き方改革」のために、まずやるべきはRPAによる業務の自動化(前編)
政府、働き方改革実行計画を決定
安倍総理を議長とする働き方改革実現会議がマスコミをはじめ、各産業界でも大変な注目を集めている。これまでに10回の会議を重ね、平成29年3月27日には働き方改革実行計画を決定した。これは「日本の働き方を変える改革にとって、歴史的な一歩である」と総理が発言するように、これから企業が働き方改革を進める上でのガイドラインになるだろう。
「働き方改革」3つの課題
働き方改革実行計画では大きく3つの課題とそれらの対策を示している。3つの課題とは、賃金などの「処遇の改善」、働く場所や時間など「制約の克服」、希望の教育を受け、多様な仕事を選択したいという「キャリアの構築」である。さらに9つの検討テーマと19の対応策が展開されている(図1)。対応策にはテレワーク、外国人材受け入れ環境、時間外労働の上限規制、副業・兼業の推進など、最近よく耳にするキーワードが並んでいる。こうした取り組みは、働き方改革先進企業として多くのメディアが事例として公表している。これから始める企業にとっては輝かしいお手本であると同時に、仕組みづくり、各種の制度改革、IT投資など、長い道のりになると感じていることだろう。今までにやったことがない対応策というものは、検討から実現までに時間がかかり、短時間では効果も出にくいものだ。 働き方改革の前に業務の改善が必要ではないだろうか。


RPAと導入事例
RPAとは
そこで働き方改革のために、まずやるべきことがあると筆者は主張する。それがRPAによる業務の自動化である。RPAとはロボティック・プロセス・オートメーションの略で、定型的なパソコン操作をソフトウェアのロボットで自動化するもの。製造ラインでロボットが組み立てや溶接をするように、オフィスにおける人手による単純作業をソフトウェアで代行させることで、業務の品質向上と作業時間の短縮を実現する。貴重な人材を本来やるべき仕事に集中させ、労働時間の短縮や最適な人員配置が可能となる。まさに働き方改革が目指しているテーマと重なるのだ。
いままでのソフトウェアと何が違うのか。入力されたデータを保存、計算、アウトプットなど“箱の中の処理”をするのが従来のソフトウェアだとすると、ソフトウェアのロボットは主にデータの入力やWebサイトの検索、データ収集など“箱の外の処理”、主にキーボードやマウスの操作そのものを自動化するところに大きな違いがある。RPAによる業務自動化の事例を見てみよう。
サッポロビール、POSデータのダウンロードにロボットを活用
サッポロビール(株)は国内各エリアに取引先小売業への提案営業支援を行うリテールサポート担当者を配置している。POSデータの分析は、営業担当者や取引先小売業に対して販売チャンスの発掘や実施した施策の検証などの情報提供を行う上でリテールサポート担当者には欠かせない営業ツールの一つである。同社では、2012年から大手小売業グループが専用サイトでPOSデータの開示を開始したことに合わせ、同企業のPOSデータを手作業でダウンロード(DL)していた。

しかし、データをDLするには1社当たり1日約1時間かかり、さらに20を超えるカテゴリーを手作業で一つずつ抜き出す必要があったために、まれにヒューマンエラーも発生していた。また、当初は数社だったPOSデータ開示も、現在は十数社に増加。タイムリーな分析を必要とする半面、手作業では追いつかない状況となった。
そこで、同社はソフトウェアロボットAutoブラウザ名人に注目。2016年2月からテスト運用を開始し、4月から本格稼働、現在は1社当たり平均約30分でDLすることができるようになった(図2)。また、手作業では作業工数抑制の観点から一部カテゴリーは週次取得にとどめていたが、導入後はすべてのカテゴリーで日次取得が可能となったため、日程が固定している催事についても、よりきめ細やかな分析や提案が可能となった。人的コストの面では、DLにかかっていた人件費を大幅に圧縮。単調でミスなどもあった手作業を自動化することで、より本業に専念できるようになった。(日本食糧新聞 2016年9月3日掲載、一部編集)
繰り返し行う単純作業を自動化しただけでなく、今までできなかったDLの頻度を上げることで、よりきめ細かい分析、提案ができるようになった、RPAを一歩進めた事例である。


ギンポーパック、Eメールで業務スタイルを変革し営業効率を向上
食品プラスチック容器の企画・製造・販売を手掛ける(株)ギンポーパックは、製造工程から在庫照会までをBIツールとの連動で、ソフトウェアロボットを使い毎日営業担当者に自動配信することで、安全在庫数を管理。業務工数の削減で欠品の予防と本業への専念を可能にした。
同社は内容物に合わせて一点一様で容器をデザインし製造するため、多品種・小ロットによる在庫管理の煩雑さに加え、在庫過多や欠品が大きな問題となっていた。また、在庫管理の担当者によって管理品質および精度の差がまちまちで、どのタイミングでその商品がどれだけ注文が入るか予測困難なことも、正確な在庫管理を阻害する要因となっていた。
煩雑な在庫管理を解消するために、BIツールを導入し、必要な情報を担当者自ら確認する手法を採用したが、結局は担当者ごとの判断基準の違いやわざわざ情報を見に行く煩わしさなどがあり定着しなかった。
そこで、ソフトウェアロボットAutoメール名人を導入し、BIツールで抽出した安全在庫数、出荷予定数、製造依頼データをEメールの本文に記入し、毎朝9時に担当者に送信する業務を自動化した(図3)。当初は各種情報をEXCELファイルにしてEメールに添付していたが、本文に記入したことで情報の閲覧率が格段に向上した。

ここで紹介した2件は、ブラウザ操作をともなう業務、Eメール操作を伴う業務をそれぞれユーザックシステムのAutoブラウザ名人とAutoメール名人で自動化した事例である。業務を自動化するには、一つひとつ時間をかけてプログラム開発するケースが多いが、自動化ツールを利用することで大幅にコストが削減できる。自動化する業務プロセスのメンテナンス性も高いのが特徴だ。
Autoブラウザ名人は人が実際におこなったブラウザ操作を記録し、スケジュール通り繰り返し実行してくれる。アクセスするたびに選択項目や表示内容が異なるケース(日付指定や表示明細数の変動など)にも対応し、エラーにならず確実に操作を実行する。プログラム不要でスクリプト(実行手順)を編集する機能が充実しているためだ(図4)。一方Autoメール名人はEメールの送受信だけでなく、添付ファイルの圧縮・解凍、データの抽出・変換、EXCELファイルへの書き込み・出力など、日常的に使われるEメールに関連する煩雑な操作を自動化する。業務フローはアイコンをつなぎ合わせることで簡単に設定できる(図5)。ソフトウェアロボットとしての活用はさまざまだ(図6)。

画面対話形式でパラメタの設定で編集でき、特殊な処理が必要な場合はVBスクリプトも使用可能

アイコンをつなぎ合わせて自動化したい業務フローが簡単に設定できる。
サッポロビール(飲料) | 十数社におよぶ小売業のPOSデータをダウンロード |
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ギンポーパック(包装資材) | Eメール本文に安全在庫数、出荷予定数などを記入して営業担当者に送信 |
ツインバード工業(家電) | Webでの注文データのダウンロード、Eメールでの納期回答 |
日本製粉(食品) | Eメールでの出荷実績報告、ファイアウォールのログ収集 |
国分ビジネスエキスパート(食品) | 仕入れ先からの出荷実績データのEメール受信から基幹システム連携を自動化 |
ロジスポ(スポーツ・釣り具物流) | 釣り具小売店からのEメールによる備品の受注業務 |
ムラウチドットコム(EC) | ECサイトからのEメールによる受注業務、データ変換、基幹システムへの入力 |
八紘電子(電子部品) | 太陽光発電監視システムからの発電量を顧客へEメールで送信 |
片山工業(自動車部品) | 得意先からのWeb受注データをダウンロードし基幹システムに連携 |
化成品メーカー | 入金データの確認業務 |
業務代行サービス | 携帯電話の請求明細の取得 |
広告代理店 | Web広告クリックデータの取得 |
図6 ソフトウェアロボットによる業務自動化の事例
著者:ユーザックシステム株式会社 マーケティング本部 小ノ島 尚博