経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」で、レガシーシステムの残存が最大で年間12.5兆円の経済損失をもたらすという「2025年の崖」問題を提起したことはよく知られている。しかし、それから数年が経過したにもかかわらず、消費財卸売業や消費財メーカーのDXは思うように進んでいない。その大きな要因として、「取引先との様々な商慣習やEDIが“足かせ”となっています」と話すのは、ユーザックシステムで執行役員研究開発本部長を務める大槻勝弥氏だ。詳しい話を聞いた。
※本記事は2021年7月30日に日経XTECH Specialに掲載されたものです。

膨大なEDI変換プログラムが“足かせ”に

 消費財卸売業や消費財メーカーは、スーパーやホームセンター、ドラッグストア、コンビニエンスストアなど、多くの小売業者と取引しており、その大部分はEDIを経由して行われている。じつはこれが、DXを妨げる“意外な原因”となっているのだ。

大槻勝弥 氏
ユーザックシステム
執行役員 研究開発本部長
大槻勝弥

 「EDIの送受信方式やメッセージのフォーマットは時代とともに進化してきました。小売業者ごとの商慣習も加わり、ひと口にEDIと言っても、その姿形は千差万別です」(大槻氏)

 消費財卸売業や消費財メーカーでは、1980年代から数十年にわたる取引の中で、様々な手順・ファイル形式で数多くの小売業指定のEDIを基幹系システムに接続してきた。EDIを経由して受けた注文データは、販売や物流、会計、生産管理などの基幹系システムと連携させる必要がある。そのためには、受け取ったEDIデータを基幹系システムのフォーマットに変換しなければならない。ところが、小売業者ごとにフォーマットが異なるため、変換のためのプログラムをその都度スクラッチで開発するという歴史を繰り返してきた。


図1
小売業から消費財卸売業や消費財メーカーへの受注形態は時代とともに変化しており、EDIが登場した1980年代以降も送受信方法やメッセージのフォーマットが様変わりしてきた。その多くは、そのすべてに対応するEDI変換プログラム資産を大量に抱えている。

 

 2000年代からEDIの業界標準仕様である「流通BMS」の普及が始まった。これにより大手小売業の多くは流通BMSで消費財卸売業や消費財メーカーとEDI取引を実現していると思われがちである。

 しかし大槻氏は「歴史が長く、取引先が多い消費財卸売業や消費財メーカーほど変換プログラムの数は膨大となり、そのすべてが基幹系システムに繋がっています。すべてのEDIが流通業界標準の流通BMSで取引されていればいいのですが、いまだにレガシーEDIと言われるJCA手順での取引やホテル業界・外食業界・専門店で広がっているWebEDIでの取引といった新旧の手順で取引されているのが現実です。やむを得ない歴史ではありましたが、レガシー化した基幹系を刷新するとなると、そこに繋がる新旧すべての接続プログラムを、時間とコストをかけて構築し直さなければなりません。多大な時間とコストを要することから、基幹系システムの刷新が進まない状態、まさに“足かせ”となっているのです」と話す。

 

 理由は様々だが、膨大なEDIの変換プログラムの存在が大きな“足かせ”の一つとなっていることは間違いないだろう。ではこれを整理してDXを進めていくためには、まず何から始めればいいのか。次ページから具体的な方法を紹介していきたい。

まずは、すべてのEDIプログラム資産の洗い出しを

 EDIの刷新は喫緊の課題として捉えるべきであり、「基幹系システム刷新のタイミングで改めて考えよう」「時間をかけて対策を練ればいい」などと悠長なことは言っていられない。基幹系システムとEDIを同時に刷新しようとすれば、仮に移行テストで不備が出た場合、そのどちらが原因かを絞り切るために多くの工数を要してしまう。さらにオフコンなど旧式の基盤で構築した変換プログラムはマニュアルすら残っていないことが多く、ブラックボックス化によって移行ができなくなる恐れもあるからだ。

 「DXレポートでもIT人材の枯渇や高齢化がうたわれているように、少なくともこれまでシステムの開発や保守を行ってきた人材が引き継げるうちに、移行を進めておくべきです。変換プログラムの数が多いほど、移行に要する期間は長くなりますから、その意味でも早めに取り組んだ方がいいでしょう」と大槻氏はアドバイスする。

 ユーザックシステムは、この移行作業を支援するため、企業間取引に用いられているすべてのEDIプログラム資産を洗い出すサービスを提供している。取引先の企業名やメッセージの種別、帳票類、マスタ類などをすべて一覧化し、どこから手を付けるべきかを優先順位付けすることで、移行に要する時間とコストを抑えられるのがメリットだ。「EDIメッセージ、伝票、値札などで個別対応が必要な取引先が500社あった大手企業様のケースでは、弊社サービスを検討いただき、6カ月の短納期で導入いただくことに成功しました」(大槻氏)。

 

 

業界標準DBの活用がブラックボックス化を回避する

 EDIを再構築する際に注意すべき点として、ユーザックシステムでは前述した業界標準の流通BMSのファイルを小売業との取引ファイルだけでなく、中間DBとして活用する方法を提唱している。

 その仕組みは、変換プログラムと基幹系システムの中間に受注データベース(DB)を置き、変換プログラムから送られてきたデータをすべてまとめてしまうというものだ。これによって中間DBから基幹系システムに送られるデータのフォーマットは1本化され、たとえ基幹システムとの接続は取引先が数百社あっても1本となる。10年後、基幹システムを再度刷新する際にも、この中間DBと基幹システムを変更するのみとなり、DXの潮流に乗って基幹系を継続的にバージョンアップすることも容易になる。

ユーザックシステムが推奨するEDI再構築のポイント

図1
小売業者ごとのEDI変換プログラムを直接、基幹系システムに接続する構成では、基幹系を刷新するたびにすべてのプログラムを繋ぎ直さなければならない。中間に受注DBを置けば、この問題は一気に解決する。

 ユーザックシステムでは、小売業のファイルからこの中間DBへの変換プログラムを「小売業メッセージライブラリ」としても用意している。対応する小売業は大手スーパーや地方スーパー、ドラッグストアなど1500以上に上り、このライブラリを利用すれば開発期間やコストをさらに削減できる。

 「中間DBを置かず、急いで刷新した基幹系システムに変換プログラムを直接変換してしまう企業が非常に多いのが現状です。10年後を見据えると業界標準の中間DBの活用は必ず行うべきと考えます。また、EDIのブラックボックス化の解消は最優先の課題と思っています。当社のEOS名人.NETを活用しながら、EDI資産のブラックボックス化を解消された数多くの事例もご紹介できますので、何から始めればよいか分からなくても、早い段階から当社にお声がけいただければ必ずお力添えできるはずです」と大槻氏は語った。

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