
1.従来のEDIの問題点
日本チェーンストア協会(JCA)に加盟する小売企業が中心となって通信手順の標準化をおこない、通商産業省(現、経済産業省)が1982年に制定したのがJCA手順です。伝票の統一とともに、流通業の取引には不可欠な仕組みとなっています。
1985年にはVAN事業が全面的に自由化され、これまで小売企業自らおこなっていたデータの集配信をVAN事業者に委託し、JCA手順によるオンラインが一気に普及しました。
しかし長年各企業にメリットをもたらしたEDIも、下記のような様々な問題点がクローズアップされるようになりました。

これらの問題を解決するため、経済産業省では2003年度より「流通サプライチェーン全体最適化促進事業(流通SCM事業)」を推進してきました。さらに2006年から「流通システム標準化事業」として引き継がれ、小売、卸、メーカーなど数多くの企業や団体が参加し検討を重ね、実証実験を通してまとめられたのが「流通ビジネスメッセージ標準」です。略して流通BMSといいます。BMS=Business Message Standards
流通SCM事業ではEDIの標準化の他に、商品マスタデータ同期化も検討されましたが、ここではEDIの標準化に限定してご紹介いたします。
2.流通BMSの概要
これらの問題を解決するために何を改善し標準化されたのでしょうか。
(1)インターネットを利用した通信基盤
まずは通信基盤をインターネットとしたことです。従来の電話回線(2,400bps、9,600bps)に比べ、通信速度が格段に向上します。インターネットの場合、実行速度が保証されるわけではありませんが、大量のデータを短時間で送ることができます。通信コストが削減できるばかりか、今まで実現できなかった画像データも送れるなど、その活用範囲が広がることとなります。また専用のモデムも不要となり、通信基盤、通信機器ともに普及しているインフラを利用することができるのです。
(2)メッセージフォーマットの統一
次にメッセージフォーマットを小売業全体で標準化したことです。これまでは、JCAという通信手順が標準化されていました。しかし、送られるメッセージの内容は各企業ごとのに異なっており、その統一化は難しいとされてきました。
大手小売企業が各社のメッセージフォーマットを持ちより、その内容を統一したことは非常に価値ある成果だといえます。標準化作業をおこなった小売企業10社で、延べ2,100項目あったものを約520項目に整理したのです。
また、業務の変更や新たな業種・業態の参入によるデータ項目の見直しも予想されることから、メッセージ構造をXMLにしたことも大きな特徴のひとつです。XMLはタグと呼ばれる記号をつけてデータの意味をあらわします。国際的にもよく使われる方式ですので、今後EDIの標準化の普及に活用されることでしょう。
さらに商品、荷姿、事業所など、コードの統一も合わせて検討されており、流通BMSの概要は次のようにまとめられます。
| EDIメッセージ | 業務取引プロセス(メッセージ種) |
|---|---|
| データ項目 | |
| コード | |
| データ表現形式:XML | |
| 通信インフラ | 通信手順:ebXML MS、EDIINT A52、SOAP-RPC(JX手順) |
| 通信基盤:インターネットTCP/IP |
(3)通信手順(通信プロトコル)
従来のJCA手順は、あくまでも日本におけるEDIの標準でした。流通BMSでは国際的に標準となっている3つの通信手順が採用されました。これら3つの通信手順は、すべて小売企業が対応するものと思われますが、どの通信手順で流通BMSに取り組むかが重要なポイントとなります。
各通信手順をまとめると、次のとおりとなります。
| JCA手順 | ebXML MS | EDIINT AS2 | JX手順 | |
|---|---|---|---|---|
| 通信環境 | 電話回線 |
インターネット |
インターネット |
インターネット |
| 通信速度 | 2,400/9,600bps |
10〜100Mbps |
10〜100Mbps |
10〜100Mbps |
| 通信可能な データ |
英数カナ |
制限なし |
制限なし |
制限なし |
| システム形態 | プッシュ/プル型 (クライアント/サーバー型) |
プッシュ型 (サーバー/サーバート型) |
プッシュ型 (サーバー/サーバート型) |
プッシュ/プル型 (クライアント/サーバー型) |
| データ量 | 少量向け |
大量向け |
大量向け |
少量向け |
| リアルタイム性 | × |
○ |
○ |
× |
| データ長 | 256KB |
制限なし |
制限なし |
制限なし |
| 添付データ | × |
○ |
○ |
○ |
(4)検品レス、伝票レス
これまでメッセージや通信インフラの技術的な標準化の内容を説明してきましたが、流通BMSには大きな業務改善の狙いもあります。それは、従来から一部の小売企業でも推進されてきた「検品レス、伝票レス」です。
流通BMSでは伝票レスの取引を想定しています。納品書や受領伝票のやり取りも、EDIに置き換えることで紙の伝票をなくし、事務処理コストや伝票の保管を削減する狙いがあります。
また、納品伝票に代わるASNデータ(事前出荷明細)をあらかじめ小売企業に送信しておくことで、小売企業での受け入れ時に、入荷検品業務の大幅な改善を見込んでいます。これが「検品レス」です。そのため納入側の企業では正確な出荷検品の体制と梱包ごとのラベル貼付が必要となります。
この梱包ラベルはSCM(Shipping Carton Marking)ラベルと呼ばれ、梱包ごとに連番をつけ梱包内容の紐(ひも)付けをデータ上でおこないます。小売企業では事前に送信されてきたASNデータと梱包に貼付されたSCMラベルのバーコードを読み取るだけで、入荷検収とするしくみです。
「検品レス、伝票レス」のしくみ
(画像をクリックすると別ウィンドウが開きます)

従来のような、梱包を開けて全商品を検品する作業から解放されるため小売企業にとっては大きなメリットがある反面、納入企業には精度の高い物流体制が求められるのです。
以上のように流通BMSは、
(1) インターネットを利用した通信基盤
(2) メッセージフォーマットの統一
(3) 通信手順
(4) 検品レス、伝票レス
が大きな特徴といえますが、ここで一番注意すべきポイントは、通信手順の選択です。通信手順はその運用方法に大きく影響しますので、自社にあったものを選択しなければなりません。
次の項目「今までと大きく異なるシステム形体」で詳しくみていきましょう。
1. 従来のシステム形態
JCA手順による従来のEDIのシステム形態は、データを集配信する1次局と、必要な時にセンターにアクセスする2次局で構成されます。通常、小売企業やVAN会社が1次局で、納入企業(受注側)が2次局となります。
両者間は電話回線で都度接続するため、通信速度は遅いもののセキュリティ面においては安全であるといえます。また、お互いに送受信するデータをまとめてやり取りするため、他のシステムとの連携はバッチで処理します。大量のデータを扱う企業にとっては、そのバッチ処理に時間がかかるためデメリットとなります。
2. サーバー・サーバー(S-S)型EDIモデル
サーバー・サーバー型は、このようなバッチ処理の欠点を補い、お互いにリアルタイムでの通信を可能にしたプッシュ型のシステム形態です。通信手順は、ebXML MSまたは EDIINT AS2を利用します。
このモデルは、インターネットの特徴を活かし、他拠点との同時接続が可能で、基幹システムなどバックエンドと密に連携できるため、大企業向けのモデルといえます。

<S-S型EDIモデルの特徴と留意点>
特徴 |
留意点 |
| ・リアルタイム処理 ・プッシュ型高信頼性通信 ・他拠点同時接続 ・バックエンドとの密な連携 |
・高いイニシャルコスト ・特徴を活かすには、バックエンドを含めた全体の設計と技術者が必要 |
3. クライアント・サーバー(C-S)型EDIモデル
クライアント・サーバー型EDIモデルは、従来型のシステム形態に近いモデルです。JCAでいう2次局をクライアントと呼び、必要な時に相手側のサーバーにアクセスし、データを受信または送信するシステム形態です。通信手順は、JX手順(SOAP-RPC)クライアントを利用します。
クライアント側はそのつど接続するため、セキュリティ面では比較的安全です。バックエンドとはバッチ処理になりますが、データ量が少ない中小企業向けのモデルといえます。

<C-S型EDIモデルの特徴と留意点>
特徴 |
留意点 |
| ・少ないイニシャルコスト ・導入が容易で短期間 ・今までの運用と大きく変わらない ・高い専門知識は不要 |
・1拠点毎に接続処理 ・相手側にサーバーが必要 ・大容量のデータ交換は不向き ・バックエンドとはバッチ連携 |
このように、S-S型EDIは従来できなかったリアルタイムで大容量のデータの送受信が可能となります。しかし、常時インターネットに接続するため、セキュリティには十分に考慮が必要となります。これに対し、C-S型EDIはリアルタイムではないものの、初期投資や運用面を考えると導入しやすい形態といえます。バックエンドとの連携方法や運用していくための体制も考えた上で、採用するEDIモデルを決定する必要があるでしょう。
1.基本形のバージョンアップと生鮮の追加
2007年4月に発表された流通BMS基本形Ver1.0は、「受注」「出荷」「受領」「返品」「請求」「支払」の6業務8メッセージです。
これはグロッサリー(酒類・加工食品、日用品)を念頭に置いた基本メッセージでした。2008年4月にはアパレルでも利用できるよう、新たなメッセージとして「値札」が加わった基本形Ver1.1が発表されました。
また、生鮮食品に対応するため、2008年7月に流通BMS生鮮Ver1.0が標準化されました。生鮮食品は、不定貫(1個当たりの重量が異なるため単価が一定しない)取引や、原産地を指定して発注するなど、業界特有の対応が必要だったのです。そのため、流通BMS基本形とは別のメッセージとして標準化されました。
基本形においては、さらにドラッグストアやホームセンターの取引にも対応するための内容の見直しが検討され、2009年4月に流通BMS基本形Ver1.2が発表されました。
また、流通BMS基本形Ver1.2においては、新たに「預かり在庫型センター納品プロセス」にも対応しました。預かり在庫型センターとは、卸・メーカーが、小売のセンターあるいは物流会社に運営委託しているセンターに、あらかじめ商品を自社在庫として保管しておく業務形態です。
2.基本形と生鮮を統合した基本形Ver.1.3
これまで2つに分かれていた基本形と生鮮が2009年10月に流通BMS基本形Ver1.3として統合されました。スーパー業界において、加工食品と生鮮食品のEDIが統一されたことは非常に大きなメリットです。基本形Ver1.3ひとつでスーパーでの取扱商品ほとんどをカバーできるようになりました。いよいよ流通BMSが普及期を迎えたといえるのではないでしょうか。
流通BMSの標準化の動き
(画像をクリックすると別ウィンドウが開きます)
流通BMS基本形 Ver1.3
メッセージ一覧
(画像をクリックすると別ウィンドウが開きます) 
グレーの部分が平成20年度以降で追加されたメッセージ
(※商品マスタは次年度以降継続検討)
流通BMS基本形 Ver1.3
生鮮納品プロセス
(画像をクリックすると別ウィンドウが開きます)
グレーの部分が平成20年度以降で追加されたメッセージ
商品提案メッセージは生鮮納品プロセス用に新たに追加されたメッセージで、その他は基本形メッセージと同じものとなっています。
3.百貨店業界の標準化
百貨店業界では、主にアパレルと婦人靴の取引において標準化を進めてきました。
百貨店とアパレルの取引には複雑な業務プロセスが存在します。スーパー業界のような買取型ビジネスに加え、消化型(店頭で販売された時点で百貨店の仕入が計上=卸・メーカーの売上が計上される)ビジネスがあります。
また、買取型ビジネスには百貨店からの発注だけでなく、卸・メーカーが納品提案するケースがあります。その他、商品マスタのやり取り、搬入予定、店頭在庫、POS売上など様々なメッセージが必要となります。
このような検討を経て、百貨店業界においては26メッセージの標準を策定しました。

どのメッセージを採用するかは、小売企業ごとに異なりますのでご注意ください。
流通BMSの導入はネットワークのしくみが変わるだけではありません。物流システムにも大きな影響を与えます。
それは、「伝票レス」への対応です。
流通BMSの大きな目的は、流通業界全体の業務の効率化にあります。そのため、先に説明したように「伝票レス」というしくみが非常に重要なポイントとなります。
では、「伝票レス」に対応するにはどのような前提条件が必要になるでしょうか。この前提条件は非常に重要ですので、自社の物流システムの現状を再確認し、いつでも「伝票レス」に対応できるよう準備しておきましょう。
詳しくは小冊子「『流通ビジネスメッセージ標準』の導入に失敗しない7つのチェックポイント」に詳しく解説しています(全30ページ)。この小冊子はご希望の方に無料でお届けしておりますので、ぜひこちらからお申し込みください。
小冊子の目次